書評:荻原浩「神様からひと言」~春の門出にぴったりだ!
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 サラリーマン小説である。
「全国のサラリーマンのみなさん~神様は、あなたのすぐそばにいる」。フムゥ。帯の惹句で宣言している。
 疲れたサラリーマンである私が、週末の解放感でことさらに浮かれていたとしても、とても手に取るような代物ではないのだ。だがしかし、作者は以前紹介した荻原浩である。大好きな荻原浩のサラリーマン小説。見逃してしまう阿呆な私ではない。

 まずはあらすじ。
 血気盛んな主人公。転職早々、大切な役員会で、ぶっちぎりの暴走をしてしまい、「お客様相談室」という社内強制収容所、リストラ要員の待機所に左遷されてしまう。そこで終わってしまったら、「実録!リストラ部屋で私は闘った」というルポルタージュ、あるいはカフカの不条理小説である。めげないで立ち上がる主人公。癖のある仲間たちとともに、客からの苦情処理業務を獅子奮迅の活躍で、バッサバッサと一刀両断していくのである。そして事態は急展開して、会社の不正を告発して、新たな生活を始める。ハッピーエンドを予感させる小説である。
 けっ!っていう小説でしょ?目も当てられない生ゴミ小説。
ところがどっこいだ。あらすじなど無用の長物なのだ。捨ててしまおう。私は、そのように偉ぶり思ったので、ネタバレ注意!せずに、傍若無人にネタバレをしたのである。
 この小説「希望と再生」の物語なのである。再生といっても、先に述べたリストラ待機所の奈落で活躍して云々、なんてチャチな再生じゃない。生き方の再生なのだ。もやもやとした考え方から、希望を発掘し生き方を再生させる。地に足をつけたやり方で。詳しくは本書を手にとって、笑いながら、泣きながら感じ取って欲しい。

 ところで、この物語の小道具である「神様」。
>(主人公)「あなたに、何かひと言、言って欲しくて」(中略)
>(「神様」「見つけたものは、拾うべきだね」(中略)
>(「神様」)「拾ったものは、離さないこと」
私が、突然に引用しても戸惑う方々ばかりであろう。この引用が、物語の文脈内で語られるとき、「神様」の言葉として、読者に訴えかけてくるのだ。そして、「神様」の正体が実は・・・。これは読んでのお楽しみである。ヒントをあげよう。「神様」とは、ファンタジーに逃げ込まない作者の強い現実肯定を象徴する「小道具」なのである。

 箴言小説でもある。
>(主人公の相棒?)「手の中に握ってるものが、たいしたもんじゃないことを知ってるのに、手のひらを開くのが恐いんだ。全部こぼれ出ちまうの。本当にたいしたもんじゃなかったってことを知っちゃうのをさ。誰も彼も、俺も」

>(主人公)「会社って一体なんだろう?」
>(上記相棒)「おでん鍋といっしょだよ」

 禅問答における公案のような文章、応答を引用したが、その解は作品に直接あたって欲しい。いずれにしても、作品中にたびたび挿入されている「イソップ物語」の向こうを張って、読者に物事の新しい視点を提供する。鋭さは蜂の一刺しであり、天晴れなのだ。
 小難しい話は抜きにして、門出の春にピッタリの物語なのである。

p.s
読んでのお楽しみが多過ぎますが、とにかく読んで欲しい本なのです。
私が、ケタクソレな講釈を垂れ流して興を削いでしまっては罰があたります。
サラリーマンじゃなくても全然OK!生活している全ての人を対象とした物語です。
大笑いしたり、大きく泣いたりする恐れがあるので、電車の中で読むのは控えた方がよろしかろうと思います。
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by keroyaning | 2005-04-02 09:16 | 書評
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