書評:J・ロルフ/P・トゥルーブ「投資銀行残酷日記」
  大型台風の14号が過ぎ去りまして、海の向こうのハリケーンほどには被害をもたらさずなによりでした(被害に遭われた方にはお見舞い申し上げます)。アメリカ南部を襲ったハリケーン「カトリーナ」。その辺りを舞台にした本をちょうど読んでいて、非常に感慨深いものがあります。
  近く、その本も紹介させてもらう予定ですが、今回は、同じアメリカでも、東海岸ウォール街を舞台にしたノンフィクションを紹介します。

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c0072240_21125847.jpg  時は、1990年代、青雲の志を抱いた二人の青年がいた。夢は、投資銀行で有意義なる仕事をして、かつ大金を手に入れること。話は、二人がビジネススクールに在籍中から始まる。スクールへの入学通知と同時に「就職状況調査」というパンフレットが送付され、業種ごとの10万ドル代の年収が提示される。学問の研鑽者に対する拝金思想の注入。イニシエーション(通過儀礼)の第一歩である。スクールでの数々のリクルーティングを突破して、サマージョブを経て、入行する二人なのだが。

  そこから彼らの戦いが始まる。
>はてしない作文という地獄の苦しみへの序曲にすぎなかった。
>(略)顧客獲得のために書類が必要になるし(中略)、
>すべて完璧に仕上げなければならない
>書類作りが上手に、効率的にこなせるなら、
>(中略)四年間はウォールストリートで暮らせる。
  
  上記書類作り(及び手直し)については、詳細な実例が挙げられているが、その様子は囚人の苦行に似ている。穴をひたすらに掘り、堀り上がった穴を埋めては、また別の場所に穴を掘り・・・。本書の帯にある「重要な仕事をしているから給料が高いのではない。とんでもない仕事をしているから銀行の給料は高いのだ!」というのもムベなるかな。

  証券会社での経験を振り返り書き起こすノンフィクションはおもしろい。カネの匂いとハードワーク。アンビバレントな両者の間で揺れ動く心。本書に先立つ先達として、F・パートノイ「大破局(フィアスコ)」、P・スタイルズ「さよならメリルリンチ」が、小説より奇なる現実を見事に描き出している。
  本書の目新しい点は、スリリングな動的描写の中に、冷静に証券会社の基礎業務が紹介されており、格好の教科書ともなりえることだろう。とりわけ目論見書(プロスペクタス)作成から始まる「ロードショウの「工程」は秀逸である。

  なにはともあれ、自分の携わっている仕事(あるいは生活)に疑義が生じた時、冷静に状況を考えてみようと思わせる作品である。

p.s.
局地的業界仕事本である本書ですが、
内容は決して専門的・排他的なものではありません。
どんな仕事をされている人であれ、どんな勉強をしている人であれ、
ジェットコースター小説を読むという気分で、手にとってみても楽しめます。
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by keroyaning | 2005-09-10 18:04 | 書評
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