人気ブログランキング | 話題のタグを見る


書評:山田詠美「PAY DAY!!!【ペイ・デイ!!!】」~喪失の存在
Pay day!!!
山田 詠美 / 新潮社
スコア選択: ★★★★★

ハートウォーミングだけど、考えさせられる物語。お勧めですYO!!


  ホラ話である。
  流行りの「奇譚」、あるいは横文字「トール・テイル」と言い換えても構わない。それほどまでに、懐かしさが満ち溢れ、涙腺を緩ませる温かい物語なのだ。すなわち、現実世界においては、「絶対にありえないだろ!おいっ!」と、猜疑心が芽生える故に、まったくもってのホラ話なのである。

  あらすじをなぞってみよう。両親の離婚に伴い、離れ離れに暮らすことになった双子の兄妹。兄ハーモニーは父親家族とアメリカ南部で、妹ロビンは母親とマンハッタンで暮らすことになる。しかし、二人の母親は、2001年9月11日のアメリカ同時多発テロ事件に巻き込まれ、行方不明になってしまう。ロビンは、父、伯父、祖母(そして兄)たち家族と新しい暮らしを始める。彼ら家族は、キャラクター豊かな人物である。
  中でも「男はつらいよ」のフーテンの寅を彷彿させる伯父。飲んだくれだが、どこか愛らしく憎めないところがあり、思春期の悩み多き双子の良き相談相手である。物語は、そんな善き家族に囲まれた双子たちの恋愛模様が、縦糸、横糸に織り込まれて、良質の青春小説として展開していく。
  
  しかし、拭うことの出来ない通奏低音として、母の「不在」が鳴り響き、影を落とす。「喪失の存在感」である。例として、ハーモニーがロビンを新天地で迎えるに際して、ギターを弾き語る場面を引用してみよう。

ココニイナイ。ハーモニーは、ロビンの言葉を反芻した。ココニイナイ。ここにいない人のために、多くの歌が作られて来た。(中略)触れることの出来なくなった人。見ることが叶わなくなったもの。嗅ぐことの許されない匂い。鼓膜を震わせてくれない声。失ったキスの味。喪失の思いは過去を抱き締め、人を歌わせる。 

  ココニイナイ喪失感が、人々を導き、創造へ駆り立てる。喪失の存在感は、物語の最後で再び語られる。

母が死んだおかげで。そう、母の死がなかったら、自分たち家族は、こんなにも急速に強く結び付くことはなかった。大切な人の死は、魂を成長させる。 

  契機として人間の死を語ることは危険だ。人間の尊厳に対する冒瀆でありタブーかもしれない。しかし、思春期の重大なイニシエーション(通過儀礼)として、大切な人の死=喪失を受け入れて二人は成長するのだ。いや、家族全員が・・・。
  
  さて、ホラ話である。小説世界でのみ開花可能な美しい徒花に過ぎない、ならば非常に残念だ。また、舞台がアメリカ南部に設定されていること。現在の日本において成立し得ない、という作者の諦念に由来するものならば、悔しく哀しい。読了後、「ココニイナイ美しい徒花を現実に咲かせたいものであるよ!」と、青臭い余韻に浸った私である。


1クリックでランクアップポイントが与えられるブログランキングに参加しています。
リンクをクリックしていただけると、とても嬉しい私です。どうぞよろしくお願いします。
         
☆☆☆人気blogランキングへ☆☆☆

どうもありがとう御座いました!!
by keroyaning | 2005-10-10 15:14 | 書評
<< 球界を憂える:その一~RCサク... p.s. >>

日記

by keroyaning