書評:谷甲州「ジャンキー・ジャンクション」~山の高みに何を見るか? 10月25日(火)
c0072240_6372290.jpg  山岳小説が嫌いだ。
  わざわざ小説家の手をわずらわせなくても、優れたノンフィクション(登攀記録も含む)や評伝が溢れかえっているジャンルだからだ。前者で言えば、小西政継「グランドジョラス北壁」でありラインホルト メスナー「ナンガ・パルバート単独行」である。後者であれば、佐瀬 稔「狼は帰らず―アルピニスト・森田勝の生と死」(注1)である。これらは一例であり、他にも優れた書が山ほど存在している。だから、屋上屋を架すに等しい山岳小説が嫌いなのである。


c0072240_638583.jpg  しかし、書店で平積みされている谷甲州「ジャンキー・ジャンクション」(ハヤカワ文庫)を視界の片隅に納めた私は、手に取らざるを得なかった(左の写真ね)。装丁の美しさ、「魂の在処を問う、山岳小説の傑作」という帯の惹句。手に取り、書き出しを読み始めたのは自然の理である。

  書き出しといえば、豊崎由美氏が、山田詠美のデビュー作の書き出しを評して、「山田詠美の握力は強い」と述べている(注2)。ところが、本書の著者である谷甲州も負けてはいないぞ。



マックスは北にむかう街道のかたわらで、パイプをふかしながら俺を待っていた。
それがはじめての出会いにもかかわらず、妙に人なつっこい眼をしていたのをおぼえている。


  この書き出しで、マックスと言う人物は飄々としてツカミどころがない人間であり、物語が進むにつれて、主人公である俺を困惑させるであろう存在であることが提示されている(注3)。また、書き出しではないが、マックスという名から、「マックスウェルの悪魔」を連想する主人公。読者に対して、これも示唆的である。
  また、散りばめられた謎の提示。主人公がたびたび見る、雪壁を滑落して「ロープを切るな!」と叫ぶ白昼夢の正体は?何故主人公のパートナーは、本来、装備を少なくするべきABCキャンプに山ほどの装備を運び上げたのか?烏合の衆である国際隊の本質はなんなのか?いずれも、サスペンスフルで不気味な謎であり、この謎がどのように回収されるのか、読者を惹き付けて止まない。

  ・・・とつかみはOKなのだが。終わり方は許せるにしても、中だるみが激しい。何回第一キャンプとABCキャンプを往復すればいいんだ?というか6000メートルを超えてそんなに軽々と行き来できるのかよ?そんな高所で殴り合いのケンカをするか?挙句は滑落してしまうし・・・。求道的なヒマラヤ登山譚が、ドタバタなスラップスティックになってしまうのが残念。

  そういうわけで、山岳小説の高みは、まだまだ先である。

  「小説は現実より奇なり!」な畢生の山岳小説が誕生することを期待している私です。

(注1)
同書をパクった小説が、柴田錬三郎賞を受賞しているのには驚きました。いや、その小説は面白いんですけど、なんか問題にならなかったのかなあ、って不思議に思います。

(注2)
山田詠美「PAY DAY!!!」(新潮文庫)の解説にて。

(注3)
前述(注2)での豊崎由美氏の視点を本書に照らし合わせた表現です。

(本稿以上)


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どうもありがとう御座いました!!
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by keroyaning | 2005-10-25 06:28 | 書評
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