有栖川有栖。私の大好きなミステリ作家である。小さな私が、「大好きである」と太鼓判を押したところで、中々に生活していくのは大変なことである。「ある」「ある」と私は、ナニを言っているのか?
彼には二つの顔があるのだ。デビュー作「月光ゲーム」に始まる、江神次郎を探偵役として配置させ、E・クイーンの向こうを張った論理性の構築を一つの柱とする「江神シリーズ」。そして、ミステリファンをして、「作家というのも霞を食っては生きていけんのだな、ああ」と嘆かせる臨床犯罪学者火村英生を探偵役とするある意味通俗推理小説を展開する「火村シリーズ」。
前者のシリーズについては、五年ほど前から「来年こそは、出るらしいぞ、あの畢生の大作が!」と言われて久しい続編が、万丈の拍手をもって迎えられた時(いったいいつになるやら・・・)に語ることにして。今回は、評判芳しくない「火村シリーズ」の本作についてである。
火村シリーズについては、国名シリーズと称される短編(講談社刊)が続々と発表されている。しかし、今回は版元が光文社であることから、表題からは国名が外されている。
正直、いつものように人物造形はおざなりで、パズルチックな短編の束であろう、と期待していなかったのだが。